「まちライブラリー」という、まちの“ちょっと立ち寄って休める場所”
京阪樟葉駅から京都方面に徒歩10分。
樟葉宮表参道商店街にあるまちライブラリー「とかとか」は、暮らしのおとなりにある小さな図書室です。


本をきっかけにみんながつながったり、お散歩や買い物帰りにちょっと立ち寄って休むことができたり。
みんなでつくって成長していきたい。その思いとともに開かれました。

オーナーは、アートディレクター・グラフィックデザイナーの浪本浩一さんと、奥様で編集ライター・絵本専門士のなみもとあやさん。
大阪市内に構えていたデザイン事務所を引っ越して、2022年にこの場所で新たな事務所を構えました。
その際に1階部分をまちライブラリーにされます。
けれど、一体どうして“まちライブラリー”という場所を作ろうと思ったのでしょうか?
今回は、そんなまちライブラリー「とかとか」 について、お話を伺いました。

住所:大阪府枚方市町楠葉1-31-2
電話番号:072-845-4344
営業時間:平日 14:00〜17:00
定休日:土日祝
アクセス:京阪本線「樟葉駅」から徒歩10分
駐車場:なし(近隣にコインパーキング)
Instagram:https://www.instagram.com/tokatoka_book
公式サイト:https://tokatoka.net/
「まちライブラリー」を始めようと思ったきっかけ
まだ真新しく感じる木材がやわらかい印象を与えてくれる入り口をくぐると、清潔感のある白い壁、木の板が貼られた温かみのある天井、大きな木のテーブルと本棚。そして絵本を中心に並べられた本たちが、やさしく出迎えてくれました。なんだか、ほっとする空間です。

オープンして2年。近所のお母さんたちの交流の場になったり、子どもたちが宿題をしに来たり、ふらっと本を読みに来たり。今ではご近所の方々を中心に、時より遠方からも来られたりする場所となっています。
浪本さんがまちライブラリーを始めようと思ったきっかけは、コロナ禍でした。

まちには、気楽に休めるところがなかった

「とかとか」は、コロナ禍をきっかけに大阪市内にあった浪本さんご自身のデザイン事務所 株式会社ランデザインを地元枚方へと移し、その1階部分をまちライブラリーとして開放したスペースです。

「前の事務所が天満橋にあったんですけど、コロナで行けなくなっちゃって。ときどき観葉植物の水やりに行く程度(笑)。さすがに勿体ないからどうしようと思っていたんです。
そんなロックダウンが続いていたある日、ウォーキングをしていて、途中でたこやきを買ったんですけど、それを食べようと思っても座って休める場所がなくて。しばらく歩いても見つからず、そのうちたこ焼きは冷えてしまいました。
そのときに“まちには座って休める場所もないんだ”って思って。だったら誰でも気楽によれる場所を作ろう。そう思いついたのが『とかとか』を始めるきっかけでした」
と浪本さんは言います。

そのアイデアを奥様であり、ライターとして株式会社ランデザインで働いているなみもとあやさんに聞いてみたところ、あやさんは大賛成でした。
「やりたいなと思いました。私は元々絵本がすごく好きなんですけど、子どもが育つと自分のコレクションをずっと眠らせていたんです。そんな絵本たちをいつか誰かと共有するような場を作りたい。そのことをどこかでずっと思っていたんですが、でもそれは老後の楽しみくらいにしか思っていませんでした」
あやさんが小さい頃には、自宅を開放して所有者個人が本を貸し出す“家庭文庫”という文化があったそうです。
いつかそんな場所をつくれたら良いなと思っていたあやさんにとって、浪本さんのアイデアは思いがけない機会となったようです。

「まちライブラリー」との出会い

場をつくろうと考えたとき、2人に浮かんだのは「まちライブラリー」でした。
まちライブラリーは、一般社団法人まちライブラリーの代表理事である礒井純充さんが2008年にはじめた活動。今では全国1,200カ所以上に及びます。
・やり方はおまかせ。
・本をきっかけとした場をつくる。
その他の細かい決まりなどは特になく、本をきっかけにした活動をすれば、そこはもう、まちライブラリー。

出会いは、以前浪本さんがデザイン事務所で入居していたビルの下の階で、磯井さんがはじめた「ISまちライブラリー」を間近に見ていたことから。そしてあやさんも、全く別の機会で磯井さんに取材をしたことがあったんだとか。


まちライブラリーのお話を聞いたときは「こんな取り組みがあるんだ!」と感動しました。
そのとき、いつかやってみたいと思っていた家庭文庫のこと。大好きな絵本たちのこと。そして浪本さんの思う、ちょっと立ちよって休むことができる場所。
それが全て叶う姿が見え、自分たちのデザイン事務所の1階を「まちライブラリー」にしようと思い至りました。


「とかとか」の意味とは?


とかとかのネーミングには“ひとりとか、みんなとか、遊びとか、学びとか、本をまん中にして育ちあうところ”というまちライブラリーへの想いが込められています。
まちづくりの仕事や、イタリアで見てきた「地区の家」と呼ばれる市民や民間団体が運営している公民館のような場所が、浪本さんの視点に大きな影響を与えました。





「色んな人が自然とごちゃ混ぜになっている場。そんな“境界を曖昧にする”ことが僕のテーマなんです」
と浪本さんは言います。
そしてあやさんからは、「とかとか」のネーミングについて、もう1つエピソードが。


「私は子どもの頃から童話を書くのが好きで、ご縁があって2021年に福音館書店の月刊絵本こどものとも年中向きから『てんとうむしくんとかたつむりくん』という絵本を出版させていただきました。それがなんと東京都八王子市に拠点を持つ児童演劇専門劇団「風の子」さんの目に止まり、演劇化されたんです。そのときの演目の名前が『とかとか』だったんです」


「前半は演者さんが新聞紙を破ったり、形づくったりかぶったりして遊んでいるという内容なんですけど、後半はそこから次第に演劇に入っていって。演者さんが自然にてんとうむしくんとかたつむりくんになっていくという演劇だったんです。
とてもすばらしい舞台で、このごちゃ混ぜから始まる感じが、私たちの作りたい場所のイメージともぴったりでした。この名前をぜひ残したい。そう思って「風の子」さんに許可をもらい“とかとか”という名前を戴いたんです」


「とかとか」の特徴とこだわり
そんな「とかとか」は、色んな方が入れるオープンな場になっていて、地域の方を中心に立ち寄ってくれています。
お外には、ちょっと休むことのできるベンチも設置しました。


時には、生まれたばかりの赤ちゃんを連れたお母さんが、今後子どもに読ませたい本の相談をしに来られることもあるそう。



赤ちゃんだった子たちがすくすく育っていく様子に驚きます(笑)
「とかとか」には、絵本を中心にデザインやアート、社会についての本が多くあります。
絵本はあやさんのコレクション。よいと思う絵本だけを選んで置いています。大人が読んでも心打たれる絵本、イマジネーションを掻き立てる絵本、そして日本では手に入らないイタリアの絵本などの珍しい絵本も揃っています。



遊びに来られた子どもに、絵本の読み聞かせをしてあげたりすることもありますよ。








「絵本専門士」という資格を取得
あやさんの絵本に対する思いは、ただの絵本好きとは一味違います。
「ただ絵本が好きなだけじゃなくて、ちゃんとした裏づけを持ちたいと思って“絵本専門士”という資格を取ったんです」


絵本専門士とは、絵本に対する確かな知識・技能・感性を身につけ、絵本を通して子どもの言語力・理解力・感性の発達など、豊かな人格形成を築いていく専門家であることを証明する資格。


この資格を持つことで、読み聞かせに限らず、大人向けの絵本講座やワークショップなど、様々な視点や角度から、絵本を通して幅を利かせた活動を行うことが出来るようになりました。



絵本専門士講座では、国内外の絵本について、その歴史やなりたち、さまざまな場面での絵本の活用法、読み聞かせの技法など絵本について多角的に学びます。


「とかとか」でこれまでやってきたイベント


浪本さんのまちへの眼差しと、あやさんの絵本を通した活動を生かし、「とかとか」ではこれまで地域のみならず全国からも人が来るようなユニークなイベントを開催してきました。
・さわって、つくる。つくって、さわる。 〜わたしの“触覚”を呼びさまそう〜


視覚障害者で自称「座頭市流フィールドワーカー」である、国立民族学博物館の広瀬浩二郎先生をファシリテーターに迎え「触ってものを“見る”」という触文化の体験をするワークショップ。アイマスクで目をかくし、視覚以外の感覚を頼りに、紙ねんどで立体作品をつくりました。
「見えていることでわかったつもりでいたけど、裏側や底面など見えていないところは勝手に想像しているということに気付かされました。手でものを触ることで360度の情報を得ることができるんです。触ることにそんなポジティブな面があることから、広瀬先生は、視覚障害者という言い方ではなく、触常者という言葉を使っています」
そう浪本さんはおっしゃいます。
・Feel 度 Walk(フィールドウォーク)


「とかとか」を飛び出して、いままでに2度開催された地元を巻き込んでのイベント。まちを歩き、自分たちが気になったもので地図ならぬ“知図”をつくります。実際に歩きながら写真に収め、自分で撮った写真の中から気になるものを選んで絵を描き、最後は一枚の大きな知図を作りました。
“知図”を通して、お互いの目につくものの違いを共有することで新しい発見があったり、感性の違いに刺激を受けたり。そんな豊かな体験となったそうです。
・「音楽と絵本のコンサート」


地域の音楽家の方々と一緒につくるコンサート。演奏に合わせて絵本を読んだり、一緒に歌を歌ったり。ほっこりしながらも本格的な演奏と絵本が楽しめる演奏会です。年に1〜2度行っています。
・絵本専門士と読む「イタリア絵本の会」


あやさんが実際にイタリア・ミラノにある児童書出版社「カルトゥージア社」に訪問して、そこで学んできたことやイタリアの絵本を紹介する。こちらは大人向けのイベントです。独創性あふれる絵のタッチ、言葉の書かれていない絵本などの変わったコンセプト。日本の感性とは違った、知られざるイタリアの絵本の魅力を発信。


その他にも「哲学対話の会」などのものごとを深く考えるイベントや、「とかとか」を飛び越えてフリースクールなどとコラボをしたりと、意欲的に活動を展開しています。
4月に開催する「まちアートくずは ピンクの他人プロジェクト」
4月には、新たにまちを巻き込んだアートイベントを開催するというお話を聞くことができました。


おとなりさんも知らないことが当たり前になってしまった現代。
「他者との境界を少し曖昧にしてみよう。“赤の他人”から、ちょこっと他者を気にかける“ピンクの他人”へ」というコンセプトで、樟葉宮表参道商店街を中心にくずはの色んな場所でイベントが開催されるプロジェクトです。
・通りのお店を、ゆるやかにつなげるとどうなるのか?
・お店と、こどもや作家とつなげるとどうなるのか?
・道行く人たちが、ゆるやかにつながるとどうなるのか?
子どもアートアトリエのこどもたちや地元の中学生、福祉施設の利用者さんや個人の作家さんがくずはの色んなお店に作品を展示していきます。
そして「ピンクのアイテムを身につけている人同士は挨拶をする」というユニークなルールを設け、みんなで他者とのつながり、ピンクの他人を体感してみる取り組みです。


⚫︎みんなでタペストリー制作
樟葉駅前の芝生広場を使って、大きなタペストリーにみんなでライブペインティングをします。


⚫︎くつ屋さんの愉快な仲間たちを作ろう!
靴のインソール端材を使って、人や動物、恐竜、乗り物や建物など自由に「くつ屋さんの仲間」を生み出していくワークショップ。


⚫︎マイ楽器でストリートライブ
アートな楽器を自分で作って、実際に音を鳴らしながら商店街を歩くというイベント。


⚫︎美容院de哲学対話
まちをテーマに、みんなで “それはどういうことだろう”とゆっくり考える場です。答えを出したり議論をしたりはしません。美容院で哲学する新感覚な対話をしましょう。


⚫︎アート干渉ツアー
作品を鑑賞しながら、同時にアートがどのようにお店やまちに干渉しているのかも見るツアーです。
他にも「Feel 度 Walk」や「演劇であそぶワークショップ@園芸屋さん」など、まちにワクワクが溢れるイベントが繰り広げられる予定です。
詳しくはこちらのサイトをご覧ください!
「とかとか」をやって、見えてきたこと
最後に、2年間様々な試みをやってきて見えてきたものについてお聞きしました。


浪本さんはアートイベントの主旨説明をするために、たびたびお店の方や地域の方々と話す機会があります。その中で「自分も何かやりたい、何か出来ないかなと思っていた」という声をよく聞くそうです。
「誰かのために役に立ちたいという気持ちは、人が内心で持っている望みなのだと感じました」


あやさんからは、
「個人主義という言葉もありますが、人は他人に関心があるのだと思います。だから他人の喜びや悲しみに感情がゆさぶられるのでしょう。それに他者との関わりを通して自分の存在を確認したいというのもあるかもしれません。とかとかの活動がそんなみんなの心の奥にあるいい感情を呼び覚ますきっかけになってほしいなと思うようになりました」


みなさんも「とかとか」を通して、本当の意味での“共感”を呼び覚ましてみてはいかがでしょうか。
オーナーからメッセージ





お店や職場の一角に、“みんなの場所”がどんどん生まれていったらいいなと思っています!



地域の中で顔の見える関係を求めているお母さんたちって結構多いなと思っています。これからも「とかとか」がそういう場になっていけたらと思います。
店舗概要
住所:大阪府枚方市町楠葉1-31-2
電話番号:072-845-4344
営業時間:平日 14:00〜17:00
定休日:土日祝
アクセス:京阪本線「樟葉駅」から徒歩10分
駐車場:なし(近隣にコインパーキング)
Instagram:https://www.instagram.com/tokatoka_book
公式サイト:https://tokatoka.net/
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