\市民が紡ぐ伝統美/
「ひらかた市民菊人形の会」の挑戦
枚方の地で、明治、大正、昭和、平成と約100年にわたり続いてきた「ひらかた大菊人形」。しかし平成17年、職人の高齢化や後継者不足という現実に直面し、その長い歴史に一度幕が下ろされました。
そこで、伝統を絶やすことなく次の世代に引き継ぐために立ち上がったのが、市民の力を結集した「ひらかた市民菊人形の会」でした。
当初10名の市民ボランティアが、かつての「ひらかた大菊人形」で活躍していた武河人形師のもとで学びながら、その第一歩を踏み出しました。現在では、初心者から経験者までが集い、菊人形の制作を通して、観光客や地元の人々にその魅力を伝える役割を担っています。
市民たちが手を取り合い、伝統美を次世代へとつなぐその姿は、まさに「挑戦」と言えるでしょう。
今回は「ひらかた市民菊人形の会」の制作現場を見学させていただきました!華やかな菊人形が生まれるその瞬間、職人たちの情熱あふれる作業風景をたっぷりとお届けします。普段は見られない制作の裏側を一緒に覗いてみましょう!
菊人形の製作は、京阪交野線の村野駅の近くにある「サプリ村野」内の教室を拠点に行われています。
場所:大阪府枚方市村野西町5-1 サプリ村野1階
アクセス:京阪電鉄交野線村野駅より徒歩10分、星ヶ丘より徒歩10分
電話番号:072-840-7869
活動日:主に月・火・木・金曜日(祝日を除く)
活動時間:午前10時から午後4時
問い合わせ:電話にてお問い合わせください。
枚方市の秋を彩る風物詩。「菊人形」の魅力に迫る!
菊人形とは、菊の花を使って作られる人形や装飾物のことで、枚方市の秋を象徴する風物詩として愛されています。色鮮やかな菊の花で彩られた人形たちは、まるで物語の世界から飛び出してきたかのような美しさを持ち、その圧倒的な存在感に誰もが魅了されます。
特に、秋の深まりとともに制作される菊人形は、自然の美しさと人の技が一体となった芸術作品として、多くの人に愛され続けてきました。胴体に使われる「人形菊」は、茎が柔らかく、細やかな装飾が可能で、細部に至るまで丁寧に作り込まれています。
菊人形の制作過程〈細やかな技が光る一年間〉
菊人形の制作は、大きく「菊人形づくり」と「人形菊栽培」の2つの作業で進められています。職人のみなさんが一年をかけて手がけるその緻密な制作過程の一部を、写真とともにご紹介します。
過去にひらかたパークで菊人形が開催されていた時代は、職人さんがそれぞれ分業制で「この人はこの部分を担当する」と決められていたそうですが、ひらかた市民菊人形の会では、全員が一緒に、どの工程も担当できるように進めているそうです。
菊人形づくりの制作過程
■頭(かしら)づくり
菊人形の制作は、頭づくりから始まります。この工程だけで1~2か月も要するそう!
まず、和紙と新聞紙を糊で重ねた、合わせ紙を硫黄型の内側に貼って頭の形をつくります。
そこに胡粉(ごふん)や紙粘土を重ねて表情を整えます。
胡粉は、計って混ぜるところからスタート。力仕事で手間暇がかかる大変な作業です。
ちなみに目は、眼球パーツを使用。これだけ見るとちょっと怖いですが目で表情が大きく変わるそうなので、眼球選びは重要。
作業場の棚にはこれまでに作られたたくさんの頭がずらりと並んでいます。どのお顔も楽しそうで生き生きしていますね!
■髪の毛づくり
続いて、髪の毛づくりです。髪の毛のパーツがあって、一本一本袋から出しては植え付け、を全て手作業で行うため、非常に手間暇がかかります。
生え際は1~2本ずつ、次第に5~6本ずつ量を増やしていくことで、自然な毛量を再現しています。
昔はカツラを買うこともあったそうなのですが、高額のため今は1本1本植え付けて手作業で髪の毛を作っています。そこまで手作りだったのか!と驚きますね。
■胴体づくり
胴体は、木や竹ひご、巻き藁(わら)を使って骨格から組み上げます。
竹ひごも、竹1本まるまるの状態から切り出して作るというので驚きです!1本の竹を、約2.5mm幅に細く均等に切り出していきます。
細く切った竹ひごの周りに、藁(わら)を巻いていきます。これも全て手作業!気が遠くなる地道な作業です。
巻き藁を1つ1つ丁寧に木枠に糸で結び、固定していきます。この細やかな手作業がしっかりとした骨組みを作り、全体を支えます。
最終的に、巻藁の隙間の穴の部分に、菊の根っこに水苔を巻いたものを、拳ぐらいの塊の状態で隙間に差し込んでいくので、崩れない程度に大きめに隙間を開けておく必要があります。
菊の花を付けるのは最終段階なので、ここまできたら10月まで保管されます。
足や手は、ある程度既製品があるそうですが、くつも手作りで作られています。
■小道具・背景制作
毎年の大河ドラマに合わせて、小道具や背景も一から手作りされます。
限られた予算の中で、本物に近いクオリティを追求する工夫がここにも息づいています。
ここまでが8月に取材させていただいた内容です。
続いて、下記は10月末に取材させていただいた内容です!
菊付けの工程~一体に約80株の菊の苗・1000輪以上の菊の花を飾る~
菊付けは、菊人形の見どころの一つです。菊の展示が始まる間際の10月ごろになると、栽培した菊の花を胴体に取り付けていきます。1体の人形に約1000輪以上もの菊を使用し、色鮮やかな装飾が完成していく様子は圧巻です。
まず、畑から根っこごと引いてきた菊の下部についている、枯れた葉や傷んだ下葉を取り除く作業から始まります。
↓この状態にしていきます
菊が傷む前に、同時に大人数で一気に作業を進めます。みなさん慣れていらっしゃって、黙々と作業を進めていらっしゃいました。
【根巻き】
綺麗にお掃除したら、根巻き作業です。菊の根と水苔を一つに丸めて、い草でしっかりと束ねます。この工程が、菊の花を長く美しく咲かせるための土台作りとなります。
長期間展示される菊をできるだけ長く展示するためには水持ちが肝心。大事な工程ですがコツがいるのでとても難しそうでした…!
そしてついに、菊を胴体に飾り付けていく工程です。
巻藁の隙間に、根っこを差し込んで、固定して、い草で花を巻藁にくくりつけていきます。
【菊の取付け】
次に、胴体に菊の花を取り付けていきます。根を胴に通しながら、1~2束ずつずらし、いぐさで固定。
襟元からつけ始めていきます。普通は1つの人形に通常約35~40球の菊が使われます。(今年の人形は十二単衣の衣装だったため65球の菊を使用しました)
この工程では、職人たちの高度な技術と集中力が試されます。花一つひとつを丁寧に扱い、絶妙なバランスで取り付けるその手さばきに、見ているこちらも思わず息をのむ瞬間がありました。
制作現場のプロの仕事ぶりに、ただただ感動の連続……!美しい菊人形が出来上がるまでの過程はいかがだったでしょうか。
人形菊栽培~年間を通じた菊の育成~
『ひらかた市民菊人形の会』では、枚方市内の中振で1,800株・村野の畑で200株、合計約30種の菊を保存・栽培しています。
■苗の準備(3月〜7月)
人形菊の栽培は1月からスタート。越冬させた親苗から挿し木して、苗を育てることから始まります。
■支柱立てと誘引(8月)
成長した菊が倒れないよう、支柱を立てて支えます。茎の成長に合わせて位置を調整するため、花がまっすぐに伸びていきます。
■水やり管理
人形菊の成長には、適切な水やりの管理が重要です。ただし、栄養を与えすぎないように注意することが必要です。
人形菊の場合、茎があまりに立派に育つと、しなやかさが失われ、折れやすくなるため、菊付け作業がしにくくなります。理想は、しなやかに曲がる柔らかい茎で、これにより美しい人形菊が仕上がります。
■開花の調整
花が咲き始めるのは9〜10月ごろ。昼夜の寒暖差によって花が咲くため、気温によって開花が遅れることもあります。
今年は夏の暑さが厳しかったので例年よりも開花が遅れましたが、なんとか収穫。
菊の収穫は、土ごと根っこから引き上げます。
11月には菊人形の菊付け作業が完了し、親株はそのまま咲かせて越冬させます。
こうした年間を通じた活動の積み重ねが、毎年の美しい菊人形を生み出しているんですね!
ちなみに、村野の畑の土は、向かいにある村野浄水場で、濾過の段階で出た泥土、浄水発生土を譲り受けて使用しているのだそう。
やりがいのある瞬間
菊人形づくりには多くの細かな作業が伴いますが、職人のみなさんが特にやりがいを感じる瞬間を聞いてみました。
①「表情が命!」顔の表情をづくり
どんなに細かな作業も、表情が完成する瞬間の喜びには勝りません。その一瞬で人形が生き生きと輝き出すからです。
②「本物に近づける挑戦」クオリティの向上
小道具や背景など、作品全体のクオリティを上げるための試行錯誤は、やりがいが尽きないポイントです。
③「笑顔がすべて」お客さまに楽しんでもらう瞬間
お客さまの喜ぶ顔を見ることが、何よりも励みになります。そのために、菊も常に美しい状態を保てるよう、手入れが欠かせません。
「菊フェスティバル2024」で展示された菊人形「藤原彰子」と「紫式部」
10/23から11/11まで開催された「菊フェスティバル2024」では、圧巻の菊人形が展示され、来場者を魅了しました。
2024年の市民菊人形展のテーマは、今注目の大河ドラマ「光る君へ」。このドラマは、平安時代の文学や人物を描き、時代背景を鮮やかに映し出しています。
「藤原彰子」と「紫式部」という平安時代の美しい女性たちが菊の花で見事に再現されました。
菊人形展の2つの見どころ
①菊の花が映し出す歴史の人物
藤原彰子と紫式部、どちらも歴史に名を刻む偉人であり、彼女たちは活躍した時代の華やかさと文化の象徴とも言える存在です。
菊人形の「藤原彰子」は、菊の華やかさを身にまとったかのような佇まいで平安女性の凛とした美しさが際立ちます。
一方、「紫式部」は、文学の才を持つ知的な印象が漂い、繊細な表現で再現されています。
②表情や衣装、小道具まで丁寧に再現
菊人形はドラマの映像や伝統的な様式辞典を参考に再現されており、細部までこだわり抜かれています。
菊が彩る衣装の色合いや顔の表情、さらには屋形の大道具・小道具まで、丁寧に表現。
菊の花を使ってこれらを表現するために、1年前から準備を始め、何度も微調整を重ねて作り上げた成果がここに集結しています。
↓菊フェスティバルの様子はこちらの記事をご覧ください。
菊フェスティバルの「菊花展」で展示されている鉢の菊は、また別団体の「菊花展実行委員会」の皆さんが育てていらっしゃいます。
同じく、サプリ村野内で菊が育てられています。(※今後場所が変わる予定)少しお邪魔して様子を撮らせていただいたのでご紹介します。
最後に。
わたしたちは、年齢も職歴もさまざまなメンバーが集まり、菊人形への愛情を胸に活動しています。初心者から経験者まで、みんなが協力し合い、伝統を守りながら、より多くの若い世代に興味を持ってもらえるよう活動を続けています。
もし少しでも興味をお持ちいただけたら、ぜひ一緒に活動し、菊人形の魅力を広めていきましょう!
ひらかた市菊人形の会のみなさんが手掛ける菊人形は、枚方の秋の風物詩であり、地域の伝統文化を象徴する存在です。
今回の取材では制作過程を実際に拝見して、菊人形の持つ深い魅力をより感じることができました。ここまで手作りでされているとは思いもしなかった工程や過程がたくさんあって、会の皆さんがどれほど丁寧に手間暇をかけて制作されているか知ることができました。
菊人形に興味を持たれた方は、一緒に活動することもできます!ぜひ気軽に、問い合わせてみてください。20〜30分の見学も可能だそうです!
(電話番号:072-840-7869)
「ひらかた市民菊人形の会」概要
場所:大阪府枚方市村野西町5-1 サプリ村野1階
アクセス:京阪電鉄交野線村野駅より徒歩10分、星ヶ丘より徒歩10分
電話番号:072-840-7869
活動日:月・火・木・金曜日(祝日を除く)
活動時間:午前10時から午後4時
お問い合わせ:お電話にてお問い合わせください。