大阪府枚方市にゆかりのあるアーティストやクリエイターに焦点を当て、生き方や仕事、作品へのこだわりや思いについてお伺いする連続インタビュー企画。
第2回目のゲストは、切り絵作家のたけうちちひろさんです。
幼い頃から絵が大好きで絵画教室に通っていたたけうちさん。武蔵野美術大学でデザインを学びながら、地域新聞社で約18年制作・編集者として活躍。その後、息子さんからの一言をキッカケにお絵かきの先生として独立。
絵画教室を展開する一方で、数々の書籍を出版。2015/16年には2年連続でボローニャ国際絵本原画展に入選し世界に活動の場を広げます。現在は枚方PR大使も務め、日々絵画教室や自らの作品づくり、依頼制作で忙しい毎日を過ごされています。
今回はたけうちさんのお仕事や生き方、作品について、そして枚方の好きな場所や関わりなどについて、ひらいろ編集部がたっぷりお話を伺ってきました。
【ABOUT】たけうちちひろ/Chihiro Takeuchi
枚方市出身・在住。枚方市PR大使。
武蔵野美術大学短期大学部グラフィックデザイン科卒業。
こども造形絵画教室おえかきひろば代表。
地域新聞社にて編集・デザインを担当。2007年退社後、こども造形絵画教室おえかきひろばを大阪・京都中心に開講。その他、企業や幼稚園、小学校、障害者福祉事業所等の工作指導・ワークショップ企画、工作本の監修など手がける傍ら、自らの作家活動にも励む。2015年、2016年イタリア・ボローニャ国際絵本原画展入選後、国内外で絵本を出版。2018年3月8日「国際女性デー」には世界12人の女性アーティストに選出され「Google anniversary Logo」を制作。
●たけうちちひろ公式サイト
●こども造形絵画教室おえかきひろば
●Instagram @chihirars
●Twitter https://twitter.com/chihirars
●facebook https://www.facebook.com/takeuchi.chihi/
切り絵作家のお仕事について
一まず、肩書きを教えて下さい。
私は切り絵作家で、絵本作家です。そして子供向けの絵画教室「おえかきひろば」の先生もしています。
枚方市内や京都でも教室をやっていまして、あとは保育園や高齢者施設などに出向くことも。幼児さんから小学生、中学生を対象に、作ったり描いたりしています。
でも教えるのは切り絵ではなく、工作と絵画で、実は切り絵は一切教えていないんです。
だって、切り絵って楽しくないでしょ?(笑)
こども造形・絵画教室「おえかきひろば」・・・大阪府枚方市・京都府京田辺市・宇治市・城陽市・奈良県橿原にあるこども絵画教室(アトリエ)。枚方教室・長尾教室・松井山手教室・東香里教室・八尾教室・宇治教室・城陽教室・橿原教室があります。
普段の活動場所
昼から夕方くらいまでは枚方や近隣の絵画教室で教えて、午前中や夜など他の時間は枚方市内の自宅などで切り絵の制作をしています。普段の活動場所は枚方が拠点ですね。
今のお仕事に至るまでの経緯や職歴
ーいつから絵を始められたのですか?
絵を描き始めたのはだいたい幼稚園からです。幼少期からとにかく絵を描くのが好きで、小学校から絵を習いに行ってました。
というか、他のことが何もできなかったんですよ(笑)唯一絵を描くことだけは学校や周りの人に褒めてもらえて。
小さいときに、3つ、なりたいものがあったんです。
1つ目は、お絵かきの先生。
2つ目は、お母さん。
3つ目は、絵本を作る人。
それで、ありがたいことに今は一応全部叶いました。
ー小さい頃はどのような絵を描かれていてたのですか?
私が行っていた絵画教室は、植物や鳥を描いたり、デッサンをしたり、本当にオーソドックスで普通の絵画教室でした。でも基礎はそこで学びました。
その後、違う先生についたときに、その先生がデザイン系の先生だったんです。それで「デザイン楽しい!」ってなりまして。そこから途切れることなく、その道を歩き続けています。
ー切り絵に触れたのはいつくらいのことだったのでしょうか?
独立する前は、(ご存じの方も多いと思いますが)地域新聞社「マイライフ」で、17,8年ずっと働いていました。
地域新聞なので自分の部下はほとんどいなくて、毎日取材に行ったり、写真を撮りに行ったり、広告を作ったりして、本当に忙しい日々を送っていました。
そんなとき、年長になった息子が「お母さん、最近おもしろくないん?」って言ってきて。あんまり笑ってないからって。
そして、「お絵かき上手いし、お絵かきの先生になったら?」って言われたんです。
それが年末の12月くらいだったんですけど、それがキッカケで、「わかった!辞める!」って言って、翌日に辞めますって上司に申し出ました。
ーそうだったんですか、すごいお話ですね。
はい。そこからすぐに辞めて、その春2007年4月にお絵かき教室を開校して先生になりました。
息子の何気ない一言からだったんですよね。でも、「お絵かきの先生したら?」って言われたときに、「あ、私お絵かきの先生やりたかったんやった!」って思い出して。昔、そう言ってた言ってた!って感じで。
そして絵画教室を作って、いろんな子どもたちにいろんな工作などを教えていく中で、もう1回自分でも何か作ってみたいと思ったんです。
先生が何かを作っているのを見て、子どもたちも励みになるというか、ちゃんと「先生すごい!」って思ってもらうことも大事だなぁと思って。それでいろいろ作っているうちに、たまたま工作本の監修に声をかけていただくようになって、切り絵に関する工作の本をたくさん出したんですね。
ーそれは工作の本ですか?
そうですね。7冊くらい出したんかな?子供向けの工作本、大人の切り絵の本などをけっこうたくさん出したんです。
▼たけうちさんが出された本(9冊ありました)
著書「かわいい切り紙BOOK」日本ヴォーグ社
共著「12か月を楽しめる はじめての切り紙」日本ヴォーグ社
著書「保育の切り紙・製作まるごとBOOK」ひかりのくに社
共著「かんたん楽しいはじめての切り紙」日本ヴォーグ社
共著「かんたんあたらしいはじめての切り紙」日本ヴォーグ社
共著「一年中たのしめるはじめての切り紙」日本ヴォーグ社
共著「あそべる つかえる 小学生のヒラメキ工作」日本ヴォーグ社
共著「牛乳パックで作る おしゃれな箱とかわいい小物」 日本ヴォーグ社
共著「かんたん たのしい 小学生のエコ工作」日本ヴォーグ社
それで、それまではつけてなかったんですけど、2015年に初めて「切り絵作家」っていう肩書きを自分で作っていたんです。謝礼じゃなくて報酬をもらったときに肩書きをつけようという自分のルールを決めていまして。初めて切り絵の報酬を頂いたときに切り絵作家という肩書きをつけ始めました。
2015年「ボローニャ国際絵本原画展」っていうイタリアの世界中のイラストレーターが応募する絵本の一大イベントがあるんですけど、そこで2015年に入選して。そこからですね。
ー切り絵作家さんって、けっこういらっしゃるのですか?
けっこういらっしゃいますよ!自分の作品を販売されている方は多いと思うんですけど、切り絵を使って絵本にしてっていうように仕事につながっている方は多くないかも知れません。
ー武蔵野美術大学を卒業されたと伺いました。
はい、大学ではグラフィックデザイン専攻で、広告デザインなどを勉強しました。体育もあったし、英語もフランス語も一通り勉強しましたね。ピカソの資料を英語で読むなど、いかにも美大!っていう授業もありました。
人生のターニングポイント
ーたけうちさんにとって人生のターニングポイントは?
やっぱり、2015年、2016年に受賞した「ボローニャ国際絵本原画展」ですかね。私、英語が全然できないんですけど、「ブックフェア」っていうイベントがあって、単身でイタリアに行ったんです。
でも、入選した作家だからといって、すぐに出版や仕事につながるわけではないのです。それはリサーチしていてわかっていたんです。だから、前職が新聞社だったので企画やプレゼン、営業もずっとやってきていたので、そういう経験も活かして、とにかく売り込みました。
具体的には、ボローニャのブックフェアにやってくるであろう世界中の出版社等200社くらいに、自分のポートフォリオや自己PR資料を作って予めメールで送っていたんですよ。結果、4日間で30社くらいのアポを取って、10分おきくらいにミーティングを入れて、アピールしました。私、英語全くゼロなんで、ずっと指差しで!
そのおかげで、その場で出版OKになって、イタリア、フランス、英語圏3社と契約することができました。
そのときいろいろな新聞社さんが取材に来てくれたんですけど、「指差しで仕事をとった人」みたいな紹介をされながら、ちょっと馬鹿にされている感もありましたけど(笑)
事前に質問されそうなことをリストアップして、英語のノートを作って行ったんです。例えば「この切り絵はこういうふうにできています」っていう英文を作っていったり。それでも答えられないものは、質問を書いてもらって、送ってもらって、翻訳して…という感じで。
でもさすがに、フランス人には「まずあなたは英語を勉強してきなさい!」ってすごい怒られましたね。「こういう席には勉強してくるべきだわ!」みたいなことを言って怒っていました。言葉はわからないので、多分ですが(笑)
ーでもその売り込まれたことが今のお仕事につながっているのですね!
そうですね。2015年の4月がボローニャで、その年の9月にはもう本が出版されていました。
たまたまその次の年も入選したので、他の国でも色々出せるようになりまして、今年で6年目。切り絵の本は8冊目ですね。日本、ドイツ、韓国、中国、フランス、イタリア、英語圏等で出版しています。
ーたけうちさんのホームページに英語が多いのは、海外での出版があるからですね。
はい、そうしておかないと、海外の人は見てくれないんですよ。でもそれがきっかけでGoogleからも仕事が来たり、他のニューヨークの雑誌から依頼が来たりもしています。
ー自分の売り込み方がわからないという方も多いと思います。
自分の売り込み方がやっぱり一番課題なんですよね。せっかく作った作品なんですから、売り込んでいかないともったいないですよね。待っていても、仕事は来ないですからね。
ーたけうちさんは活動に関して全てお一人でされてるのですか?
絵画教室はスタッフと一緒に運営していますが、作家活動は一人ですね。漫画家みたいに背景を他の人に描いてもらうとか言うものでもないので・・・。
作品を作る上で大切にしていること
自分が楽しくて作っている部分が大きいです。だから人からどう思われても構わないと思ってずっと制作をしてきてたんですが、最近ちょっと変わってきているところはあります。
というのも、絵本を作り出してからは、受け手(子どもたち)に間違えたことを伝えられないという、大人の責任があるじゃないですか。
なので、絵本の仕事に関しては誤った情報を伝えないように、しっかりリサーチしてから正しいものを作っています。
例えば、「一軒の家の住人たちの24時間を定点観測で追いかける絵本」を今まさに作っているんですけど、1Fにパン屋さんが入っていてもう一つ下に床屋さんが入っている設定です。でもパン屋さんの24時間の仕事ぶりって、わかるようでわからないじゃないですか。
それを就活情報サイトなどで時間軸を追いかけて、だいたい何時から何時までどんな仕事をして働いているかを、絵の中ではチラッとしか出てこないんですけど全て勉強してから書いています。元新聞社にいたので、リサーチ好きなのもありますね!
ー根拠というかきちんとしたデータに基づいて書かれているんですね。
はい、絵本に関しては一つのお話を作る上で、ちゃんと背景を調べてつくる努力をしていますね。自分の好きっていうだけで作っていたときはもっと気楽やったんですけど、やっぱり責任があると思うので、ちゃんと背景や歴史など意味づけしてから表現するようにしています。
ー切り絵作品はどういった手順で作られているのですか?
最近はiPadである程度下書きのスケッチをしてから、型紙にプリントして、切っていくという流れです。
先程もお伝えしたこのパン屋さんが出てくる24時間の本は、今までになく細かくて、パーツを一つ一つ手で切って、作っています。パソコンで一瞬でコピペでできるはずなのに、全部切ったんですよー・・・(泣)24時間分の全40ページ、背景も全部…もうなんか、先週は展示会も重なっていて納品までに本当に時間がなくて、辛すぎて泣いていました。
なんでこんなに大変なことを全ページに作ろうとしちゃったんだろうと・・・。
でもやっぱり泣きながらも全部アナログで仕上げているのは、いずれ原画展をしたいからなんです。おかげさまで、原画展はもう来年まで決まって来ています!
作家さんって自分の作品の制作工程を隠される方も多いんですけど、私の場合は全部出しているんですよ。海外は全部出すのが割とOKなんです。本当は作家さんに委ねられるべきなんですが、日本は著作権や出版が決まるまである程度時間がいるのでなかなか出せないんですよね。
あとは、自分の手法をバラしたくないという方も多いです。私は全部出しているので、ファンの人がどんどん出来上がっていく過程を見ながら楽しみにしてくれて!だから、「ついに出ます」っていうときになったら、「待ってました!!」って感じでみんながすごい早くアマゾンなどで予約入れてくれるんです。そして書店員さんたちが「原画展もうちでぜひ!!」って早めに言ってくれるのですよ。
みんなももっと制作工程を出していったらいいのになぁって思います。隠すメリットはないと思う!だって自分のやり方ですし、別に真似されないじゃないですか?こんな面倒くさいことですけど、真似するんやったらどうぞ!って(笑)
ー月によって異なるとは思うんですけど、月に何点くらい作品作られるんですか?
幼稚園などで配布される月刊誌の表紙も担当しているので、毎月その締切が来るんです。結構好評だったみたいでありがたいことに来年もオファーをいただいて・・・ってなると、来年の2月の表紙を今作っている感じです。(※取材は2021年10月上旬)
もう一つは赤ちゃん絵本が出るんですけど、それもやっているので・・・もうなんか、1ヶ月にどれくらいか、わかんないです(笑)
ー作品は一つずつ仕上げて次にいくか、同時進行でいうとどちらですか?
同時進行ですね。1つをリサーチしながら、別のをデッサンしながら、更に別の表紙を切っていく、みたいな。
例えば表紙だったら形は決まっているのであとは手を動かすだけ。だから別のデザインを考えながら同時で作業したり・・・
ー新聞社にいたときよりもお忙しいのでは?
忙しいです!新聞社のときにも日付が変わるまで働くことが当たり前で、その時はその生活がすごく忙しいと思ってたんですよ。でも今もっと忙しい!今月がすごく忙しくて、初めて3日間徹夜をしてしまったり。ずっとエナジードリンクを飲んでいて気づいたら体臭が甘いエナジードリンクの匂いになっていたり、家の玄関の階段の一歩が上がれなくなってしまって、コケて、たんこぶができてしまったんです・・・この歳でたんこぶできるとは自分でびっくりしました。だめですね。この歳でこんな生活をしたら・・・
作家1本で生計を立てるって本当に、なかなか大変なんです。
ー枚方のPR大使もされてますよね。
はい、枚方市の切手を切り絵で作ってから枚方のPR大使に任命されました。
一度作った作品が、いろんな部署から次々声掛けが合って、いろんな制作物に使ってもらっています(笑)それによって知名度が広がって次々新しい依頼をいただけるのもありますね。
先日は枚方市役所の文化財課主催の「ひらたから展」っていう展示があって、そこでは枚方らしいイラストを展示してもらっていました。
影響を受けた人や作品
駒形克己さんっていうデザイナーの方ですね。ダンディーですごく気さくな方なんです。一般のペーペーが質問しても、それこそ手の内明かさないような人たちが多いのに、駒形さんは出版社への交渉の仕方やアドバイスなども全部教えてくれる方なんですよ!
今後の展望・やりたいこと
ー今後の展望や今後やりたいことはありますか?
ないですね〜
ーないのですか!
よくインタビュー受けたらだいたい聞かれるんですけど、あんまりないんですよね別に。来るもの拒まずでこれまでやっていたら、なんとなくこの位置にたどり着いていたというか・・・。
毎日が楽しかったらいいんです!毎日、「今日頑張った!」って思えたらそれでいい。その積み重ねで1年過ごして、大みそかの日に今年これだけやったなぁって思って、「笑ってはいけない」を見たら、もうそれで1年満足!
ーあまりないかも知れないですが、お休みの日は?
あんまりないですね。でも休みが取れたら、穂谷にある枚方市野外活動センターによく行きます!別荘のように使ってますね(笑)大好きなんです!去年からなかなか行けてなかったですが、先日やっと取れた休みに「キャンプ行きたい!火見たい!とにかく焚火がしたい!」と思って行きました。焚火、禁止でしたけど(笑)
枚方の好きなお店・場所
穂谷の枚方市野外活動センターと、枚方市中央図書館ですね。
中央図書館はめちゃくちゃ行ってますね。家から歩いてすぐで、最近ちょっとさぼってるんですけど夜ウォーキングにも行ってるんですよ。家から3周〜5周歩いて帰ったら、ちょうど1時間で。
余裕がある時は図書館で調べ物をして、軽読書コーナーからの公園の眺めがとても良いので、パソコンを持って行ってずっと仕事をしています。外で遊んでいる子たちが見えたり、散歩している人を見たりもできて気に入っています。
枚方歴、関わり
枚方育ち、枚方在住です。
枚方を題材にした作品
枚方市市制施行70周年を記念して作られたオリジナルフレーム切手、ひらかたから展のビジュアル、FM枚方の冊子の表紙など多数。
今後の出版の予定
最新作は2021年11月中旬発行の「みんなのいちにち」。人々の生活の24時間を、1時間ずつ切り抜いて、丁寧に仕上げられた作品。原画展も開催予定!枚方T-SITEでもイベントをする予定です。
【ABOUT】たけうちちひろ/Chihiro Takeuchi
枚方市出身・在住。枚方市PR大使。
武蔵野美術大学短期大学部グラフィックデザイン科卒業。
こども造形絵画教室おえかきひろば代表。
地域新聞社にて編集・デザインを担当。2007年退社後、こども造形絵画教室おえかきひろばを大阪・京都中心に開講。その他、企業や幼稚園、小学校、障害者福祉事業所等の工作指導・ワークショップ企画、工作本の監修など手がける傍ら、自らの作家活動にも励む。2015年、2016年イタリア・ボローニャ国際絵本原画展入選後、国内外で絵本を出版。2018年3月8日「国際女性デー」には世界12人の女性アーティストに選出され「Google anniversary Logo」を制作。
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