「枚方 蔦屋書店」文学コンシェルジュ・大江佑依さんが推薦する、川上未映子氏著『わたしはゴッホにゆうたりたい』

「気になるあの人はどんな本を読んでいるの?」
枚方市内で活躍するあの人に、好きな本や映画、雑誌、アートなどおすすめの「カルチャー」を教えてもらいました。

推薦してくれるのはこの人!
「枚方 蔦屋書店」文学コンシェルジュ・大江佑依さん

今回は、「枚方 蔦屋書店」文学コンシェルジュの大江さんにコラムを書いていただきました。

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皆様、初めまして。

枚方 蔦屋書店に在籍するBOOKコンシェルジュ達が、順にお薦めの書籍をご紹介するコラムのコーナーが始まりました。

私は文学コンシェルジュを務めます、大江と申します。

「コンシェルジュ」と言う単語は、直訳すると「門番」の意。

書店は「知の森」と言われますが、皆様を知の森にご案内出来ます様、そして知的好奇心をご期待通りに満たせます様、毎日書棚作りを始め、イベントやフェア等、様々な形でご提案を続けております。

さて、枚方 蔦屋書店のOPENより早4年半。

文学コンシェルジュ歴もそれに等しいのですが、何度も頂いて参りました質問が幾つか御座います。

「一番好きな小説って何?」

「本を読んでいたら眠くならない?」

「つまらない、と感じた本も最後まで読み切るべき?」

「文学って単純明快な事をわざわざ難しくしている気がしない?」

と、こちらはその一部です。

一番好きな小説は語り始めると止まりませんし、私も本を読んでいるとだんだん眠くなって参ります。(寝る前の読書が習慣ですが、毎晩顔の上に本を落とします。)

つまらない、と感じる本は最後まで読まなくても良いと思います。

私は同時に七冊程の本を同時に読み進めるので、開く事が億劫になる本は自然と淘汰されていきます。

しかし淘汰されていった本も、不思議と自分が読む「タイミング」が再来する事がままあるから不思議です。

その「タイミング」まで、一旦友好的なお別れをする事も是非、選択肢の一つとして置いておいてください。

単純明快な事を難しく語り続ける文章は、作家達の思索の轍(わだち)です。

共感出来る本に出逢えた時の悦びに、本読み達は夢中になるのでしょう。

…そう言った本と皆様の出逢いをお手伝いする事が、我々コンシェルジュのお仕事です。

どんな本を読めば良いか分からない、単にお薦めが聞きたい、と言う時。

当店のコンシェルジュ達は、黒のベストに茶色の名札を着用しております。

是非店頭でお声掛けくださいませ。

川上未映子氏著『わたしはゴッホにゆうたりたい』

さて今回お話したい事は、読者が作家に抱く信頼感について—

私は数年前、とあるエッセイに出逢い、頭を打たれた様な衝撃を受けました。

関西弁で綴られる魂の叫びの様な一編は、そのページを開いた瞬間に本がわんわんと泣き出す鮮烈さをもって私を虜にしました。

それが、川上未映子氏著『わたしはゴッホにゆうたりたい』(講談社文庫『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』収録)

川上未映子(かわかみ・みえこ)氏は大阪府に生まれ、歌手活動を経て主な創作の場を文筆業へ移されました。

本編は、彼女の奥底から湧き上がり行き場を失くしたエレジーの塊と言いますか…

かのフィンセント・ファン・ゴッホへ向けて書いた、慟哭の手紙です。

2005年に彼女が個人のblogに書き殴ったこの手紙は、芸術に身を投じた偉大な、そして全き純真を貫いた画家の魂の救済を試みる慈愛に満ち満ちています。

しかし、ゴッホの弱さをも一手に引き受ける様子は、感情移入なんて生易しいものではありません。

ゴッホへ向ける情と滂沱たる関西弁は、読者の心を漏れなく抉るのです。

今一度、少し立ち止まって考えてみたい事。

ゴッホよ、貴方の傍にどんな人が居たら、いや、どんな人が貴方に拳銃の存在を忘れさせられただろうか。

そしてゴッホは隣人に、友人に、何をして欲しかっただろうか。

「大丈夫」と、背中を押して欲しかった?

温かいスープとパンを目の前に置いて欲しかった?

一緒にお酒を酌み交わしながら、馬鹿話がしたかった?

明日の生活に困らない分のお金や食糧を与えて欲しかった?

世界中で開催される彼の展覧会に集まる人々は彼の夭逝を嘆き、その原因を議論した事でしょう。

答えは、神と彼のみぞ知る。

しかし私は、『わたしはゴッホにゆうたりたい』を読んで腑に落ちた気がしたのです。

ゴッホはきっと、誰かに一緒に泣いて欲しかった。

自分以上に涙を流してくれる誰かを見て、笑いたかった。

そんな友人が、恋人が居れば、彼は絶望の淵から這い上がる事が出来たのだ、と。

私はこの短い一編を読む度に、川上氏の文章がゴッホの背中を強くさする様な気がして、涙を抑える事が出来なくなるのです。

強烈な勢いで、ゴッホを肯定する。

傍若無人な鎮魂歌に初めて出逢った時、私は「この作家は一生信頼出来る」と確信しました。

誰かに肯定されたい時、誰かを救済したい時。

この一編が心の拠り所となる事を祈ります。

文学コンシェルジュ・大江佑依

川上未映子氏のオンライントークショーを10月30日(金)に開催!

さて、そんな川上未映子氏に文学コンシェルジュが、氏の創作活動や人生についてとことんお伺いするイベントを10月30日(金)夜に開催いたします。

皆様、オンラインでご参加くださいませ。

尚、氏の著作は勿論、作品の世界観を凝縮した写真パネルや略年譜の展示、ご本人による選書+コメント等が一挙に展開されたフェア「川上未映子の本棚」が当店4Fのイベントスペースに登場しました。

7mの高さを誇る本棚が、川上未映子氏一色に…

壮観です。

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こちらは10月末日までの展開ですので、是非お立ち寄りくださいませ。

では、お付き合い頂き有難う御座いました。

またお会いしましょう!